エプロン姿に純粋に和んだ私の純情を返してくださいSS …いえ、最高ですw

何故分かったのだろうか。

咄嗟に嘘をついて誤魔化そうとしたが、彼の言葉は確信に至るほどの自信に溢れていた。情報指向補正は不能と判断。

 

彼を驚かせようと思って冷蔵庫にしまっておいた今日の自信作。彼の今日の行動範囲を再分析するに、それに彼が気付く可能性は皆無。

それでも、彼は正確にその存在を言い当てた。とっておきの、手作りプリンとフルーツのア・ラ・モードさくらんぼ仕様。彼の好みに合わせて、甘さは控えめ。

それを引き立てようと夕飯の味付けを濃い目にしたせいだろうか。余分に購入した卵と牛乳のせいだろうか。献立とそれに必要な調理時間との齟齬からだろうか。その程度の情報でそれに辿り着けるとはおもえないが、彼の発展的情報分析力はときに驚愕に値するほどの的確さを見せることがあるのをわたしは知っていた。今回も、おそらくその範疇によるものなのだろう。

 

「…待ってて」

 

少々残念に思うが、露見してしまっては仕方が無い。わたしはそれを取り出すために冷蔵庫に向かおうとした。

その手を、くいと引かれた。 わたしがバランスを崩すに至るタイミングとベクトル。絶妙。わたしはあえなくバランスを崩し、倒れこむ。情報処理を行えば、直立状態を維持することも可能ではあったが、その必要はない。何故なら、私の手を引いたのは彼の手だから。だから、安心。

一瞬後、わたしの体は彼の胸に収まっていた。背中から、体ごと抱きすくめられる。包み込むようなぬくもりと、彼の匂い。それは即効性の薬物のように、わたしの心を溶かす。彼という存在、そしてそれを指し示す全ての情報は、わたしにとって何よりの甘露。

でも、少し待って欲しい。あなたはプリンを所望した。だが、この状態ではわたしはそれを果たせそうにない。冷蔵庫まで行かせて欲しい。

 

彼はほんの少しだけ不思議な表情をしたが、すぐに噴出すように笑い出した。

 

「ありがとな。だが、そっちのプリンは後にさせてくれ」

 

そっちのとは?疑問を口にする間もなく、身を震わせる感触に遮られる事となった。不意打ちは禁止と、以前伝えたはずなのに、彼は一向にそれを守ろうとしない。

それより、いつの間に外したのか。その手の速さはもはや神技の領域に達してると推測できる。止め金だけでなく肩紐のフックごと外され、視認するまで気付かない自然さを以ってそれは床に転がっていた。 わたしは未だ、制服もエプロンも身に着けたままだというのに。驚愕を禁じえない。

覆うものを失い、彼の手にわたしが晒される。その感触に全身が総毛立つ。細胞の一つ一つに染みこませるように、欠片たりともこぼさぬように、それを受け入れようと体中の組織が活性化する。

 

「今はこっちのプリンがいい。…いいか?」

 

指先で転がしながら、耳元で囁く様に尋ねる彼。答える余裕は、わたしにはもう残されていなかった。肺から搾り出される吐息が意味もない音のようなものを作り上げ、わたしの口はそれに答えるべき言葉を紡ぎだすことが出来ない。そもそも過多ともいえる多大な刺激により、わたしの体はもはや自律的行動がほぼ不能な状態に陥っていた。

それでも力を振り絞って、ほんの僅か、でも確かに首肯してみせる。

意思表示。これは、わたしの意思。わたしの意思を以って、彼の意思を受け入れてる。その確かな形、そしてその喜び。

 

それを見た彼の顔が、本当に嬉しそうに微笑んだから、わたしは本当に嬉しくなった。肉体も、心も、彼に包み込まれ溶かされるような感覚。これを、幸福と呼んでいいのだろうか。わたしにそれが許されるかどうか分からないけど、わたしは確かに今そう思っている。その自分に、誇りを持っている。わたしという存在と、彼という存在を確かに感じる。彼と共にあるわたし、わたしとして彼と共にいられる、その実感。

 

不意に、彼の体がわたしから離れた。支えを失い、自ら支える力もなくふらついた私の体を、ひょいっと彼が抱えあげる。…どうやらプリンだけでは満足できなくなった模様。

彼の体が、他の何よりも雄弁にそれを教えてくれた。

 

冷蔵庫のプリンは、明日の朝になりそう。少し残念。でも、満足。そして、楽しみ。

それにあう朝食の献立を脳内で組み立てつつ、甘えるように彼の胸に顔を埋めた。

 

(続きません)